そしてまた一年が経ち

はてなブログがまたメールをくれた。また一年が経ったと。

364日前の自らの投稿を読み胸が苦しくなった。そうだよね、と頷きながら話を聞いてあげたい。

私と恋人は婚約を(ほぼ)した。指輪を共に見にいき、前撮りをここでしたいと彼が言ってくれたから私はドレスまで調べ始めた。

一つ前の投稿を読み思う、一度は結局彼と結婚する仕組みだったんだなと。それは一年前から決まっていなんだなと。
彼と結婚しないならどんな相手とできるだろう、と書いている時点で明瞭だった気がするけれど私は結婚自体を必要としていなかったから(それは今でも私個人においては変わらない)状況を真っ直ぐにみることが出来ていなかったんだと思う。思い返せば友人は離れ離れになる前に結婚するだろうね、と私たちのことを言った。

実はあまりまだピンと来ていない。指輪は好きだから嬉しい。ダイヤも美しい。けどドレスや、式や、子供への期待や、すべて重苦しい。はあ。打っていてもため息が出る。

自分が何故こうなったかは分かっていて、理由を解明したところで解決にはならず、嫌だ嫌だと首を振る自分の心の一部分を頬杖をついて見守っている。嫌だよねえ、と。

一年が経ち

前回の投稿から一年が経ったとはてなブログが知らせてくれ、舞戻ればまあ読み応えのある記事がいくつかあり、感心した。残すものだなあ。

一年経った。ずいぶん違った場所にいる。

交わることを主に好んでいたあのかわいらしい獣とは別れ、一年前には出会っていたひとと今は交際している。友人とは言え男たちに囲まれていると、と何の気もなく書いていた中の一人だ。彼らに囲まれていると寂しさはぼやける、と言ったことを書いていたと思う。その通りだった。

だからとて一年前の今頃は今の恋人と恋仲になることはないと思い込んでいた。人生は分からない。

前の彼と目立って違うのは私が今の人と未来を共に歩めたらと考えはすることで、だがしかしキャリアを考えると我々の道が重なり合うのは期限付きに思える。どちらかが大きな決断をしない限り。

人任せに聞こえるが私にはその決断を取ることが出来ない。もし私の考えを変えるきっかけがあるとすれば子を宿すこと、そして私の母もしくは父が命に関わる病に倒れることではなかろうか。私は愛と夢に生かされていて、それらふたつをなるべく均等に大切に扱いたい。愛が傾けば夢は一度置いて支えなければ私は私ではなくなると思う。

私が私であるために選択肢一つ一つを取らなければならない。子や親に関係なく、彼のため一つに母国へ帰ることは私の魂が死ぬように思える。東京はただでさえ恐い街だった。今だって愛している街なのに、恐い街には違いなかった。

何故あんなに人に余裕がないのだろう。そして一週間もいれば私もそれに慣れていた。ひどく苛立つ人々が目の前で右往左往していても心を乱さない術をいとも簡単に思い出し、身なりにより気を付け、異国にいる気の抜けた自分よりも洗練された自分になるべしと背筋を伸ばしていたように思える。それは悪ではなかろうが、完全なる善とも思えない。

私よりもずっと日本人らしい恋人は東京が似合う。けれど彼が東京でより幸せになるかと言うと私はどうも頷けない。より疲弊するだけではなかろうか。疲弊して、その先に何があるのだろう。

私たちは多分ずっと一緒にいることは出来ず、さよならをするけれど、これだけの時を共にし、ベッドに入っても話すことをやめず笑いが止まないような相手と暮らせたことを大切に思い返すだろう。彼と結婚しないとき、他のどんな人と結婚できるのか想像がつかない。結婚でなくてもいい、どんなパートナーと暮らせるのだろう。生活において必要な擦り合わせはほとんどなかった。どんどん歳を取り、凝り固まる互いが他人を受け止め暮らすこと、そのハードルは上がる一方であろうに。いやはや、こまったこまった、、

91日

以前の投稿は91日前だったらしい。
読み返していてこんな事を書いていたのかと目を見開いた。
彼からは結局連絡があった。しかし私がここへ戻り二ヶ月も経った後だった。
一ヶ月であれば、私はまだ彼に繋がれたままだっただろうと思う。
事実戻り一ヶ月ほどは彼を探していた気がする。私たちは徒歩30分圏内に住んでいた。
しかし他の友人であれど男たちに囲まれ、出会いも増え、ぼうっとしている間に彼の気配は薄れた。
薄れたタイミングで彼は連絡をしてしまったのだ。しかも質問系で文章を終える気概は無かった。質問系にしなくても私なら返すと思ったのだろう。
事実私は返す前提でメッセージを読むなり途方に暮れたのだった。なんて返そう。もう戻れないとわかっているのになんて返せば。
そしたら親友から一言で切り捨てられた。返すなと。戻ることがないなら返すことに優しさはないと。
フックの効いた正論である。私は返さなかった。
けど友人の現地人の彼氏と話していて(彼にはたびたび私と恋人の話をしていた)返さなかったと言うと、ひどく驚き非難めいた目を向けられた。
その目に私はまた傷ついてしまった。なぜなら私は共感していたから。再度気づいただけだ。ひどいことをしたと。
一度何かを共有し、体温に身を溶かせ、怒ったり笑ったりした相手を無視するのは堪える。

私は恋人だった男の連絡を無視したのはこれが初めてだったのだ。

彼の身体は馬を思わせる身体だった。
欧州人らしいと言えばいいのか、胴が短く足が長い。ランナーズ体型だった。骨の周りにしかと抱きつくように必要なだけの筋肉がある足。体毛は濃いのだがそれは巻毛で柔い。髪と比べると濃い茶に覆われたそれはより一層動物を思わせた。美しく細くて若い獣といったやうな。呼吸もよく見えるし体温は高く、かわいかった。
私は彼を手放してしまった。なんたる言い草と思われるようだが他に適した表現は無かった。手放すことばかり考えていて、結果あの身体で独りあの薄暗い街にいた彼は耐えきれなくなってしまった。私は決してそれを待っていたわけではなかった。だが安堵した。深く安堵し、束の間の寂しさと哀しさに見舞われた後はただ怠けた。何を理由にすることなく怠けたのだった。
恋しく思うのはセックスばかりでそれをみっともないと恥じるべきなのか歳を食ったなと笑うべきなのか迷う。彼との行為は楽しかった。大胆なことを言う癖に私が躊躇するとその姿にすぐ狼狽する姿が滑稽だった。しかし間抜けな姿に優しさを見ては安心していた。彼にあらゆる姿を見られることに抵抗は無かった。羞恥心を捨ててセックスは良くなるのだろう。
ああまだ手放したく無かったと言う気持ちと、家族や将来を考えていた彼が甦り別れるほかなかったのだと言う気持ちが交差する。

年貢を未だ納められない三十路の男の愚痴のようだろう。私もそう思う。いや、実際そうなのだ。女と言うだけで。君が好きでも君と家庭を築くことは想像できないし君の家庭に収まる自分は到底想像つかない。その距離を彼はずっと見ていたのだ。苦しいのは今の生活じゃない君との距離それだけだと別れる直前に言われた。お互い分かっていた。

互いに恋しくて会いたくても会わない方がいいことがあると初めて知った。これぞ30になる年の女か。
あとは異国へ戻ったあと彼に連絡する事を我慢することのみである。先週知り合ったフランス人には問題なく戻れるだろうと断言された。そんなものだろうか。戻って私たちはどこへ行くのだろう。私はただ異国にいる間あの獣と一緒に寝ていたかった。彼の温度に安心した。それが平行線で続き存在することを願っていたのだ。それは残酷なんだ。都合が良い、いつかあそこを去るだろうお前だから願う薄情な願いを、相手を思うなら捨てる事、捨てる事。

世界で一番欲しいもの

世界で一番欲しいものは、私も手に入った。

幾つか前の投稿のタイトルに気づき一応書いておこうと思った。

私の世界で一番欲しいものは9月30日の16:49に手に入った。

私には怖いものが減った。

欲しいものなんて親が今のまま長く健康でいてくれることくらいになった。
ただ願う必要があるものなんて大切な人の健康以外もうない。なくなったよ。

チョコレイトにはミルク

私は子供の頃からチョコを食べる時にはミルクが欲しい。
母はよく分かっていてすかさず「牛乳いる?」と聞いてくれる。私は大抵「うん」と答える。

昼を食べ終わった後彼がダークチョコレイトを勧めてきた。
真四角の大きなピースが二つ連なったものを渡される。受け取る。
一口食べ思う。ミルクが欲しいと。

恥ずかしいことだろうかと考え、いや別によかろうと考え、聞く。
「ミルクを貰っていい?」
私は彼が食べ飲んでいるものをよく一口欲しがるため彼は机を見渡した。
「いや、冷蔵庫にある?私チョコレイトにはミルクが欲しいの」
彼はこちらを少し驚いたように見つめ、もちろんいいよと答えた。
彼はシリアルをよく食べる。セミファットのミルクが常備されていることを私はよく知っていた。

少し勇気が必要な発言だったため私の表情は綻び、彼がいつも水を汲んでくれるワイングラスを持って勢い良く立ち上がった。キッチンに向かおうと一歩踏み出すと彼が右ふとももに徐にしがみついてきた。

面食らう私。何事かと思うが抱きついたまま深く呼吸を吐いてなんだか脱力している。
私はダークチョコレイトと水の入ったワイングラスをそれぞれの手に持ちなす術がない。なんだなんだ、と思いつつ安堵した姿で体重を預けてくる彼を見下ろしまあよいかと待つ。気が済んだ様子で仕事へ戻り私はキッチンへ向かった。

人のちいさなわがままでこちらも安心すること、あるよね。
そんなことをミルクを注ぎながら思った。
注ぎ終わるなりキッチンに彼がきた。私が飲む前にグラスを取りミルクを口へ運ぶ。

確かにね、みたいなことを言った。
そうでしょうと返した。

その眼鏡

七時から仕事だと言うので寝過ごすようなことをさせてはいけないとこちらは気を張っているのにアラームを幾度も消しては二度寝を繰り返す。三度寝。四度寝。

ついに始業時間10分前となりベッドから出ていく。
そこでようやく私は息がつけた。
深い眠りへと誘われ、ぐっすりと布団の中にくるまっていたら起こされる。
私が平穏に寝付けたのは一時間だった。仕事のきりが良かったのか気付いた時には相手の体重が上にある。
布団を剥がし私の身体を触るなりうひゃあ、と声を上げた。えらく温かいなと笑いまだ半分以上寝ている私の体に唇を幾度も当てる。
気持ちが良い。こんな起こされ方なら悪くないと目を瞑ったまま言えばまた笑い声がする。
顔を撫でてくれるのでその心地良さに幸福を感じていたら明らかに彼の手ではないものが顔に当たる。目を開ければ見たことのない眼鏡を私に着けさせようとしている。後から聞けば仕事用らしい。
太い黒縁の大きな眼鏡を気付いたら付けさせられていた。
私はいかんせん目が開かない。なんとか薄目を開き彼を見れば笑みをたたえただこちらを見つめている。満足気だ。
視力良いのかと思っていたわ、と言ったらまたくるくるとよく回る頭に多く詰め込まれた言葉で小気味の良い返事が来た。
眼鏡を私の顔から外した。仕事に戻るのだと察する。その一連の彼の行動に暖かい好意を感じていたので出ていく間際のキスを大事に返した。顔に手を添えて、頬を撫で、目を薄く開き微笑んだ。あちらも微笑んだ。
まだ寝ていたかった。しかし出なくては行けない時間があったから助かった。その眼鏡は後ほど起き上がりパソコンの前でぬいぐるみのようにもこもことしたバスローブを羽織り仕事をする彼が着けている様子を見たらよく似合っていた。私は好きだと思った。