チョコレイトにはミルク

私は子供の頃からチョコを食べる時にはミルクが欲しい。
母はよく分かっていてすかさず「牛乳いる?」と聞いてくれる。私は大抵「うん」と答える。

昼を食べ終わった後彼がダークチョコレイトを勧めてきた。
真四角の大きなピースが二つ連なったものを渡される。受け取る。
一口食べ思う。ミルクが欲しいと。

恥ずかしいことだろうかと考え、いや別によかろうと考え、聞く。
「ミルクを貰っていい?」
私は彼が食べ飲んでいるものをよく一口欲しがるため彼は机を見渡した。
「いや、冷蔵庫にある?私チョコレイトにはミルクが欲しいの」
彼はこちらを少し驚いたように見つめ、もちろんいいよと答えた。
彼はシリアルをよく食べる。セミファットのミルクが常備されていることを私はよく知っていた。

少し勇気が必要な発言だったため私の表情は綻び、彼がいつも水を汲んでくれるワイングラスを持って勢い良く立ち上がった。キッチンに向かおうと一歩踏み出すと彼が右ふとももに徐にしがみついてきた。

面食らう私。何事かと思うが抱きついたまま深く呼吸を吐いてなんだか脱力している。
私はダークチョコレイトと水の入ったワイングラスをそれぞれの手に持ちなす術がない。なんだなんだ、と思いつつ安堵した姿で体重を預けてくる彼を見下ろしまあよいかと待つ。気が済んだ様子で仕事へ戻り私はキッチンへ向かった。

人のちいさなわがままでこちらも安心すること、あるよね。
そんなことをミルクを注ぎながら思った。
注ぎ終わるなりキッチンに彼がきた。私が飲む前にグラスを取りミルクを口へ運ぶ。

確かにね、みたいなことを言った。
そうでしょうと返した。